今回は、少し専門的ですが、知っていて損は無いお話です。
白内障というのは、図のように眼の中のレンズ(=水晶体)が濁ってしまう病気です。
治療は、手術でこれを取ってしまって、人工のレンズに置き換えます。この人工のレンズを「眼内レンズ」と言います。そして、この眼内レンズにも様々な度数が有り、当然、それぞれの患者さんに合った度数を選んで入れなければいけません。
では、その度数、どうやって決めていると思いますか?
眼鏡やコンタクトレンズを作るときは、ある程度、器械で測定した後、検眼用の眼鏡に、色んなレンズを入れたり取り替えたりして、「さっきのと、こちらと、どっちがよく見えますか?」など、いくつか試しながら最終的に決めてゆきますね。でも、眼内レンズは、手術中に眼の中に入れるので、そんなことは出来ません。
では、どうやって決めているのか?
実は、「計算」なのです。つまり、眼の表面のカーブや、眼球の奥行きを計って、そこから計算して決めているのです。しかし!眼球の形やプロポーションは、人それぞれ違うので、同じ様な測定結果でも、結果にバラツキは出てしまいます。しかも、術前検査は、水晶体が、未だある状態で行っていますが、実際には、水晶体を取った状態に眼内レンズを入れるわけですから、これでは、正確さは期待できません。でも、これが、これまでの限界だったのです。
しかし!手術中、つまり水晶体を取って、眼内レンズを入れる直前に、眼の屈折状態を計って、最終的に眼内レンズの度数を決める、ハイテク機器「ORA」という器械を導入しました。これを使えば、入れるべき眼内レンズの度数を、計算では無くダイレクトに決められる、画期的なもので、長い白内障手術の歴史の中では、夢のような器械が遂に出来た、と言っても過言ではありません。勿論、ごく一部の施設にしか無いものですから、この器械を使っても使わなくても、健康保険診療で行われる手術費用は変わりません。けれど眼鏡やコンタクトレンズは買い換えられても、眼内レンズは一度入れれば一生使わなければいけません。この、一生使うレンズの度数、「もう一段階、強いのが良かった」「ほんの少し強すぎた」は、僅かなことかも知れませんが、患者さんの、生涯のQOV (Quality of Vision)は、大きく変わると思うのです。本当の、白内障手術専門家として、この機器を導入しない理由はありません。
「白内障手術には、計ってる手術と計ってない手術がある」ご参考になれば幸いです。